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4-16 届け物

Author: 柚月なぎ
last update Last Updated: 2025-10-13 07:54:00

 明け方、無明は白笶と共に玄冥山の玄武洞へと足を運んでいた。

 昨夜から降り続いていた雨は止んでいたが、足元がぬかるんで歩きにくい。朝露に濡れた道端の葉が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いて見えた。澄んだ空気の中、白笶は無明の歩幅に合わせてゆっくりと並んで歩いていた。

 無明は白笶の左側を歩くのが癖になっていた。会話はいつもの通り、無明がほとんどひとりでしゃべっているような状態だが、それを見つめる眼差しはどこか優しく穏やかに見えた。

 途中からは白笶に抱き上げられ、玄武洞のある場所まで飛んでいく。碧水の地が端まで見渡せるかのような絶景に、無明は思わず声を上げていた。晴れ渡った空もそうだが、壮麗な湖水の都は、運河も含めてひとつの景色として素晴らしい眺めだった。

「おはよ、無明、白笶」

 玄武洞の入口に立って、ひらひらと優雅に手を振っている逢魔は、ふたりの名を呼んでにこやかに挨拶をした。隣には彼より背の低い太陰が、腕を囲って揖し、礼儀正しく迎えてくれた。

「おはよう! ごめんね、急に押しかけて。頼みたいことがあって、白笶に連れて来てもらったんだ。でもよく来るのがわかったね?」

 逢魔を見上げて首を傾げて、そんなの簡単だよ、と笑う。腰を屈めて、無明の顔を覗き込み、人懐っこい雰囲気を纏ったまま、その金眼の瞳でじっと見つめてくる。

「神子の匂いがしたから、太陰兄さんと一緒に待ってたんだ」

「え? 匂い? 俺ってそんな変なにおいがするの?」

「変な、じゃなくて、とてもいい匂いだよ、」

 無明はますます首を傾げ、それ以上聞いても納得する答えは返ってこないと察する。

 そんな逢魔の襟首を掴み、太陰は後ろに引きずると、話が進まないからお前は大人しくしていろ、と吐き捨てる。

「神子、それで、頼みとは?」

「うん、あのね、逢魔に頼みたいことがあって、」

 言って、無明は白い衣裳の懐から綺麗に畳まれた文と、小さな花柄模様が描かれた布で作られた、鶯色の小袋を手の平に乗せた。

「これを、母上に届けて欲しくて」

「藍歌殿に? いいよ。あなたの頼みを断る理由はないし」

 逢魔はそれを受け取ると、自分の懐にしまう。なぜ名前を知っているのか、という質問さえ抱かせないくらい自然な会話だった。

「なにか伝えることはある?」

「ううん、邸に置いて来てもらうだけでいい。母上ならそれでちゃんと解かってくれるから、」

 そう? と逢魔は少し残念そうに答える。

「まあ、俺も紅鏡に用があったから、ちょうどいいお遣いだね、」

「そうなの? じゃあよろしくね、」

 任せて、とにっこりと笑みを浮かべる。あ、そうだ、と無明は思い出したかのように、逢魔の衣の袖を引く。

「逢魔、君の真名を呼んだら、君はどこにいても俺の前に現れるの?」

「うん、そうだよ。俺はあなたの眷属だから、どこにいても名を呼ばれれば召喚される。契約を結んだ四神も同じだよ。四神は陣さえ発動させればそこに現れる。ただ、恩恵を受けていない地での他の四神の召喚は、特に霊力を消耗するから、本当に必要な時だけにしてね?あなたが倒れたら何の意味もないから」

 現に、碧水に玄武の陣を展開した時でさえ、無明は四半刻ほど意識を失ったのだ。

 太陰もその意見には賛成だった。

「声だけなら、心の中で名を呼んでもらえればいつでも応えられます。私で役に立つことがあれば、いつでも呼んでください」

 太陰は無明の前に跪いて、頭を下げる。無明は慌ててそれを止めさせる。何回されてもその姿は恐れ多いと思ってしまう。自分などに跪かないで欲しいと、無明は首を振った。

 こんな状況になっても、無明にとっては四神のひとり、玄武であることに変わりはなく、自分はこれから先も、ただの痴れ者なのだ。

✿〜読み方参照〜✿

無明《むみょう》、白笶《びゃくや》、逢魔《おうま》、太陰《たいいん》、藍歌《らんか》

紅鏡《こうきょう》、真名《まな》、碧水《へきすい》、玄冥山《げんめいさん》、痴《し》れ者

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Comments (2)
goodnovel comment avatar
柚月なぎ
kyanosさま。 ちなみに最後まではしておりません!! 告白と口付けだけでした。 白笶がどう考えているのかは後々本人の口から語られます。無明は自分の気持ちを自覚しましたが、白笶が自分をどう思っているのかは、まだまだ不安はありそうです(TдT) 次は白虎が守護する地に行きます♪
goodnovel comment avatar
kyanos
これは……二人は恋人同士に? この出来事が必然ならば良かったと思えます。 ただ白笑は本当に無明に神子を重ねていないのか 疑いが消えなくて心配。 四神のうち次に遭遇するのは白虎かしら? じゃあ西に向かうのかなと思ったりしてます。 更新有り難うございます!
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